夕方、空が薄暗くなってきた頃、人吉の駅にやってきた。
なんだか一人で夜の街を歩くのなんて久しぶりで、少しだけソワソワする。 目的は『夏目友人帳』の影絵である。
駅の近くをうろうろしていると、建物の壁に、ぽつんと影が浮かび上がっているのを見つけた。 夏目だ。


「あ、おった」
思わず声が出そうになって、慌てて口をつぐむ。 一人で夜の街で「おった」とつぶやく怪しい人になるところだった。
昼間は何でもないただの壁なのに、暗くなると突然、妖怪やら夏目やらが浮かび上がる仕組みらしい。 なんだか昔やった、影踏み遊びの延長みたいで、じわじわと楽しくなってきたのだった。
闇に浮かぶキャラクターと、角度のこだわり
街の中をてくてくと歩きながら、影絵を探す。
暗い路地を曲がると、また別の壁にドーンと大きな影絵が現れた。 近く寄って見てみると、思った以上に存在感がある。
今にもニャンコ先生が「おい、夏目〜!」と威張った声で言い出しそうだ。

せっかくなので写真を撮ろうとスマホを構えるのだけれど、夜の撮影はなかなか難しい。 斜めから撮ったり、少ししゃがんで下から狙ってみたり。
暗闇に向かって、一人で何度も角度を変えてカメラを構え直す姿は、端から見たらかなりヘンテコだったかもしれない。 でも、誰に見られているわけでもないし、まあいいのだ。

時間が教えてくれた、小さな奇跡
影絵を探しながら街を巡り、グルリと回って再び人吉の駅まで戻ってきた。
ふと最初に見かけた夏目の壁を見上げると、なんだか違和感がある。
「あれ……?」
よく見ると、さっきは夏目一人だけだったはずなのに、いつの間にか横にニャンコ先生が増えているのだ。


どうやら時間が経つと、影絵の柄が変わる仕掛けだったらしい。
最初は一人だった夏目が、最後にはニャンコ先生と一緒に並んでいる。 なんだか物語のワンシーンを見届けたような、ちょっと得をしたような気分になった。
誰もいない夜の駅前で、変わった影絵をじーっと見つめながら、心の中でそっと「よかったねぇ」と思ったのだった。
夜の散歩を終えて
写真を何枚も撮って、静かな夜の街をあてもなく歩いて。
大げさなイベントというわけではないけれど、暗闇の中にポッと光る影絵を探す時間は、なんだか子供の頃の探検みたいでワクワクした。
一人で夜道を歩くのも、たまには悪くないな。
そんなことを思いながら、満足して帰り道についたのだった。


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